本物の温泉と観光学(2007年05月26日) |
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「こんにちは、初代です」と言っても分りませんね。でも、この「初代」というフレーズが通用する世界があります。「別府八湯温泉道」という小さな世界です。
別府八湯温泉道とは、簡単に言えば、2001年3月25日にスタートしたスタンプラリーのことです。予め定められた温泉施設88ヵ所に入浴(温泉道の言葉では入湯)してスタンプを集めると、名人としての段位認定状、そして黒色タオル(別府八湯温泉道名人という金色の刺繍文字入りタオル)を別府市観光協会から頂けるのです。その際の申請料金は、なんと500円に過ぎません。さらに温泉殿堂(ひょうたん温泉・別府市鉄輪温泉)において、顔写真の永久掲載の特典があり、末永くその偉業が称えられるのです。と、ここまで読んで、もうお気づきですね?冒頭のご挨拶ですが、実は私が別府八湯温泉道「初代名人」なのです。
従来、温泉といえば、お年寄りのものというイメージでしたが、平成期以降、女性や若者なども取り込んだ形で温泉ブームが続いています。九州では、由布院温泉、黒川温泉、長湯温泉などが人気を集めていますが、都会では、スパと称される日帰り温泉が登場し、支持を広めています。
ところで、最近、「本物の温泉とは何か」という議論が消費者の間に出てきました。これは、一時期マスコミを騒がせた、レジオネラ菌の問題から派生してきています。温泉浴室で菌を吸い込んで肺炎になり、その後死亡するケースが発生して、担当者は大いに慌てました。問題を起こした温泉施設には、専門の係官も不在で、素人同様の人が無責任にも仕事をしていた訳です。
これからは、こうした失敗は、絶対に許せません。観光や温泉のことを専門の立場で学んだ人を人財(財産としての人材)として、大いに活用すれば良いのです。その一役を担う人材が観光学部で学んだ学生達だと思います。
温泉は、源泉と浴槽とでは、泉質が異なります。湧出したばかりの温泉が最も新鮮ですが、時間が経つにつれて、劣化が始まります。スパ系の温泉で「天然温泉100%」とか「源泉100%」という看板を見かけますが、これは本当でしょうか。確かに源泉は天然温泉かもしませんが、浴槽はそうとも限りません。源泉が低温であれば、加熱をするし、量が少なければ水を足すことになります。そうなれば「天然温泉」とは言えないのです。本物か偽者か、その見分けが大変ですね。しかし、観光学部で学ぶことで、専門的な知識を取得し、真贋(しんがん)を感じとるセンス(感性)を磨くことができます。今こそ観光学部で、本物の学問を学びたいものです。
プロフィール
浦 達雄 教授
専攻は観光地理学。専門は温泉学、ファッションタウン論、観光診断論、旅館経営論など。日本及び世界の観光地や都市を研究中。趣味は温泉入湯と海外旅行。2001年3月31日、別府八湯温泉道初代名人。
●主な著書 『世界を歩く、地球を回る』(たいせい) 『観光地の成り立ち-温泉・高原・都市-』(古今書院) 『別府八湯湯遍路日記』(クリエイツ)